「渋滞で車が止まっている時、自転車で左側をすり抜けて前に出てもいいのか?」
この疑問、自転車に乗る人なら誰もが一度は持ったことがあるはずだ。
ネットで検索すると「違反だ!」「いや合法だ!」「捕まる!」「捕まらない!」と様々な意見が飛び交い、何が本当なのか全くわからない。
「違反だ!」も「合法だ!」も、実は半分ガセだ。この記事に書いてあることが「本当の正解」だ。
先日、私も自転車で走っていて大渋滞に出くわした。「左側をソロソロとすり抜けて前に出ようかな…でもこれって捕まるのか?」と迷った末、私はすり抜けずに車列の最後尾で待つという選択をした。
この記事では、道路交通法の条文・警察庁の公式見解・SBAA(自転車安全利用推進委員会)の公式見解まで徹底的にリサーチした結果をもとに、「なぜ私が待つ選択をしたのか」、そして「もしすり抜けるなら、どうすれば捕まらず、死なずに済むのか」を、細心の注意を払うべき4つの条件とともに解説する。
理想論ばかりの「絶対にやるな!」という教科書的な回答ではなく、現実的でリアルな正解をお伝えしよう。
まず「すり抜け」「追い越し」「追い抜き」の違いを整理しよう
法律の話をする前に、まず言葉の定義を整理しておく必要がある。
| 用語 | 定義 | 法律上の扱い |
|---|---|---|
| 追い越し | 進路を変えて(車線変更して)前の車両の前方に出ること | 道交法第2条第21号で定義。禁止場所あり |
| 追い抜き | 進路を変えないまま、前の車両の側方を通過してその前方に出ること | 追い越しより規制が少ない |
| すり抜け | 車両と車両の間を縫うこと | 法令上の定義なし |
信号待ちや渋滞で停止している車列の左側を直進して前に出る行為は、進路を変えていないため「追い抜き」に該当する。「追い越し」ではない。
この区別が非常に重要だ。なぜなら、道路交通法上の「追い越し禁止」規定の多くは「追い抜き」には適用されないからだ。
「すり抜け」は違反なのか?法律上のグレーゾーン
では、本題の「追い抜き(すり抜け)は違反なのか?」という問いに答えよう。
結論:原則として違反にはならない。ただし、例外が3つある。
合法となる根拠
道路交通法には「自転車の左側からの追い抜き禁止」を明確に定めた条文は存在しない。
むしろ、自転車(軽車両)は道路の左側端を通行する義務がある(道交法第18条第1項)。
左側をまっすぐ進むこと自体は、法律の基本ルールに沿っているとも言えるのだ。
SBAA(自転車安全利用推進委員会)の公式見解でも、以下のように明記されている [1]:
「現在の日本では、すり抜け行為を直接明確に定義している法令はありません。定義が無いのですから、名指しで禁止もされていません。」
同見解では、すり抜けは「グレーゾーン」であり、「捕まる可能性は非常に低いが、悪質とされた場合は捕まったり、注意を受けたりするかもしれない」とも述べられている。
違法になる3つの例外
「原則合法」であっても、以下の3つのケースに当てはまると完全に「違法(アウト)」になる。
例外1:横断歩道の手前30m以内(道交法第38条第3項)
信号のない横断歩道や自転車横断帯の手前30m以内では、追い越しも追い抜きも明確に禁止されている。ここで車を追い抜くと完全にアウトだ。
道路交通法 第38条第3項:「車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては(中略)その前方を進行している他の車両等の側方を通過してその前方に出てはならない。」
ただし、信号機のある横断歩道の場合は、この規定の適用外となる場合がある。
例外2:無理な割り込み(道交法第32条)
停止している車列の先頭まで行き、無理やり車の前に割り込む行為は「割込み等の禁止」違反になる。
道路交通法 第32条:「車両は(中略)停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等(中略)に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切ってはならない。」
ただし、「割込み車両が進出できる十分な余地があるときは、割込みにはあたらない」という解釈が一般的だ。
前に十分なスペースがある状態で前に出ることは割り込みには該当しない。
例外3:安全運転義務違反(道交法第70条)
スピードを出してギリギリの隙間をすり抜けたり、フラフラと危険な走り方をすれば、安全運転義務違反に問われる可能性がある。
2026年4月の道交法改正との関係
2026年4月1日から、自転車の交通違反に対する「青切符(交通反則通告制度)」が施行された。
この改正で気になるのは、「すり抜けが青切符の対象になったのか?」という点だ。
結論:すり抜け(追い抜き)自体は、青切符の対象違反リストには含まれていない。
ただし、同時に施行された改正道交法では、自転車が「できる限り道路の左側端に寄って通行する義務(第18条第4項)」が強化された。これに違反すると「被側方通過車義務違反」として反則金5,000円の対象となる。
また、自動車が自転車を追い越す際は「少なくとも1メートル程度」の間隔確保が義務化(第18条第3項)された。これは自動車側への規制だが、自転車が左側端に寄らずにすり抜けをしていると、この義務が果たせなくなる状況も生まれる。
青切符の全違反リストについては、こちらの記事で詳しく解説している。
法律よりも怖い!すり抜けに潜む「4つの死のトラップ」
法律上は「条件を守れば違反にはなりにくい」ことがわかった。しかし、私が渋滞の最後尾で待つ選択をした最大の理由は、法律違反で捕まることよりも「死ぬ確率が異常に高い」からだ。
警察庁の統計によると、自転車と自動車の死亡・重傷事故のうち、出会い頭衝突と右左折時衝突による事故が8割以上を占めている [2]。すり抜け中には、まさにこの「死のトラップ」が4つも待ち構えている。私の実体験を交えて解説しよう。
トラップ1:左折巻き込み事故(最凶のトラップ)
交差点付近でのすり抜けは自殺行為に等しい。
車(特にトラックやバス)の左折時に巻き込まれる事故は、自転車死亡事故の典型的なパターンだ。大型車は内輪差が大きく、左側にピッタリ寄せることができないため、その隙間に入り込んだ自転車が気づかれずに巻き込まれる。
私の実体験でも、コンビニの駐車場やガソリンスタンドに入ろうとした車が急に左折してきて、ヒヤリとした経験が何度もある。ウインカーを出さずに急に左折してくる車もザラにいる。
SBAA(自転車安全利用推進委員会)の見解でも、「交差点で左折しようとしているクルマの左側には突っ込まないことです(自殺行為です)」と明記されている [1]。
トラップ2:突然の「ドア開き」
渋滞中、助手席や後部座席から突然人が降りてきてドアが開くことがある。駅前や繁華街では特に危険で、タクシーだけでなく、一般車両でも「渋滞で進まないからここで降りるわ」というケースは意外と多い。
私自身、渋滞中に後部座席の人影に気づいてヒヤリとした経験がある。ドアが開いた瞬間、自転車が避けられる距離はほぼゼロだ。
トラップ3:車の陰からの歩行者飛び出し
完全に車が止まっている渋滞の列の間を縫って、歩行者が道路を横断してくることがある。車の陰から突然現れるため、すり抜けている自転車からは全く見えず、衝突を避けるのは至難の業だ。
車間が開いていたら「何かある」と推測して、伸び上がって確認・徐行するのが鉄則だ。
トラップ4:対向車線からの右折車(右直事故)
渋滞で止まっている車列が、対向車線の右折車に道を譲ることがある。「おっ、車が止まってるからすり抜けよう」と直進した自転車と、道を譲られて右折してきた対向車が激突する「サンキュー事故」だ。
これも車の陰になってお互いが見えないため非常に危険で、衝突した場合は自転車側が重傷を負う可能性が高い。実際に私も歩道走行時にこのパターンで事故に遭ったことがある。車道を走っていたらもっと大きな事故になっていただろう。
結論:現実的な「正解」と、すり抜ける場合の「4つの絶対条件」
ここまで読んで、「じゃあ結局どうすればいいの?」と思っているだろう。
私の結論はこうだ。
「交差点付近や、少しでも危険を感じる場所では、おとなしく車列の最後尾で待つのが最強の正解」
しかし、何キロも続く大渋滞で、真夏の炎天下にずっと車の後ろで排気ガスを吸いながら待てというのは現実的ではないことも理解している。
もし、どうしてもすり抜けをして前に出る必要がある場合は、以下の「4つの絶対条件」をすべて満たして、細心の注意を払ってソロソロと前に出ること。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 条件1 | 歩くのと同じくらいの「超低速(いつでも止まれる速度)」で進む |
| 条件2 | 交差点の手前(左折車がいる可能性がある場所)では絶対にすり抜けない |
| 条件3 | 横断歩道の手前30m以内では絶対にやらない(道交法第38条第3項) |
| 条件4 | 車のドアが開くこと、歩行者が飛び出してくることを「常に予測」して走る |
これを守れないなら、すり抜けは諦めて待つしかない。
命と引き換えにしてまで急ぐ理由など、どこにもないのだから。
万が一の事故に備えて:自転車保険の加入を忘れずに
すり抜けをしていて万が一事故を起こした場合、相手への損害賠償が発生する可能性がある。
自転車事故では、歩行者に重傷を負わせた場合に1億円近い損害賠償を命じられた判例も存在する。自転車保険への加入は、今や多くの都道府県で義務化されている。
自転車保険の選び方については、以下の記事で詳しく解説している。
まとめ:渋滞すり抜けの「本当の正解」
| 質問 | 答え |
|---|---|
| 自転車の左側すり抜けは違反か? | 原則として違反ではない(グレーゾーン) |
| 青切符の対象になるか? | すり抜け自体は対象外 |
| 横断歩道の手前30mでのすり抜けは? | 完全に違反(道交法第38条3項) |
| 無理な割り込みは? | 違反(道交法第32条) |
| 結局どうすべきか? | 交差点付近では待つ。やむを得ない場合は4条件を守って超低速で |
「じゃあ具体的にどんな違反がいくらの反則金になるの?」と気になった方はこちらの記事も参考にしてほしい。
参考文献
| # | タイトル | URL |
|---|---|---|
| 1 | SBAA(自転車安全利用推進委員会)「すり抜けについて」 | https://www.sbaa-bicycle.com/article/4043 |
| 2 | 警察庁「事故・違反の発生状況|自転車ポータルサイト」 | https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/portal/accident.html |
| 3 | 道路交通法(e-Gov法令検索) | https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105 |
| 4 | 警察庁「自転車の交通ルール|自転車ポータルサイト」 | https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/portal/rule.html |
| 5 | 警察庁「自転車を安全・安心に利用するために(自転車ルールブック)」 | https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/pdf/rulebook.pdf |



